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大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)7125号 判決 1981年8月03日

原告 株式会社近畿事務コピー

右代表者代表取締役 谷元剛

右訴訟代理人弁護士 宇津呂雄章

同 和泉征尚

右訴訟復代理人弁護士 宇佐美貴史

同 正森三博

被告 高川実

右訴訟代理人弁護士 竹田実

右訴訟復代理人弁護士 塩川吉孝

主文

一、被告は、原告に対し、金二八三九万一六八二円及びこれに対する昭和五四年二月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを一〇分し、その九を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四、この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1.被告は原告に対し金三〇四八万四四三二円及びこれに対する昭和五四年二月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2.訴訟費用は被告の負担とする。

3.仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1.別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件不動産」という)は、もと原告の所有であった。

2.昭和五二年七月二八日頃、原告は被告から左記約定の下に金六〇〇万円を借り入れた。

(一)弁済期 二年以内(昭和五四年七月二八日まで)に弁済する旨の黙示の了解があった。

(二)特約 被告以外の債権者に対する原告の債務を被告が代払する場合も考えられ、また、登記費用等の経費分も考えて、弁済額は金一〇〇〇万円とする。

3.前同日頃、原告は右貸金債務の担保のため、本件不動産に譲渡担保を設定し、被告は、本件不動産につき昭和五二年七月二八日譲渡担保を原因として所有権移転登記を経由した。

4.昭和五三年八月三〇日頃、被告は、譲渡担保権の実行であると称して、本件不動産を訴外三和産業株式会社に譲渡し、昭和五四年二月五日、所有権移転登記を了した。

5.(一)本件不動産の評価額は、左記のとおりである。

したがって、本件不動産の昭和五四年二月五日現在の評価額は金九二〇〇万円を下回らない。

評価時

(昭和年月日)

土地価格

(単位万円)

建物価格

(単位万円)

合計

(単位万円)

五二・七・三一

三五三六

五二一七

八七五三

五三・七・三一

三六四六

五五五四

九二〇〇

五四・五・一

三七四八

五九二九

九六七七

(二)本件不動産につき担保権を有する債権者及びその被担保債権額は左記のとおりである。

担保権者

被担保債権額(円)

五三・八・三〇

五四・二・五

中小企業金融公庫

三三五〇万六四二二

三五二九万一四七八

兵庫県信用保証協会

七〇七万八七〇五

七四八万二八四〇

株式会社池田銀行

八二五万一五四八

八七四万一二五〇

(合計)

四八八三万六六七五

五一五一万五五六八

(三)被告は、譲渡担保権実行時である昭和五四年二月五日時点における本件不動産の評価額から被担保債権額を控除した残額を清算金として原告に交付する債務を負うものであるところ、被告が原告に対して交付すべき清算金の額は、本件不動産の評価額金九二〇〇万円から前記(二)の被担保債権合計金五一五一万五五六八円及び本件貸金債務金一〇〇〇万円を控除した残額の金三〇四八万四四三二円である。

6.よって、原告は被告に対し、右清算金三〇四八万四四三二円及びこれに対する弁済期(譲渡担保権実行時)の翌日である昭和五四年二月六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する被告の認否

請求原因1の事実は認める。

同2のうち、昭和五二年七月二八日頃、被告が原告に金を貸付けた事実は認めるが、その内容は争う。

同3のうち、譲渡担保権の設定及び所有権移転登記の事実は認める。

同4の事実は認める。

同5(一)、(二)の事実は知らない。同5(三)の主張は争う。

三、被告の主張

1.被告は原告に対し、左記のとおり合計金三九一万円を貸付けた。

(一)昭和五二年七月上旬金二六五万円

(二)同月上旬 金一二六万円

2.昭和五二年七月中旬頃、被告は、原告の申出により、同年八月までに、前記(一)、(二)の貸付を含め総額金一二〇〇万円を限度として、原告に貸付を行なうことを承諾し、その際、右貸付金の担保のため、左記約定の下に本件不動産につき譲渡担保契約を締結した。

(一)被担保債権 昭和五二年八月までに金一二〇〇万円を限度として被告が原告に対して貸付ける貸金。

(二)利息 月三分

(三)弁済期 昭和五二年九月二八日

(四)賃料 月二万円とし、毎月末日限り支払う。右賃料を支払ったときは、利息の支払を要しない。

(五)処分清算 原告が右元利金の弁済を怠った時は、賃貸借契約は当然効力を失い、被告において本件不動産を遅滞なく任意に処分し、その売得金を前記元利金及び諸費用に充当し、残余は原告に返還する。

3.被告は、右約定に基づき、さらに原告に対して左記のとおり合計金六八四万〇六〇〇円を貸付けた。

(一)昭和五二年七月二八日 金一八四万〇六〇〇円

(二)同月末日頃 金一五〇万円

(三)同年八月一八日頃 金三五〇万円

4.原告は弁済期までに元利金、賃料の支払をしなかったので、被告は、昭和五二年九月二九日、本件不動産の所有権を確定的に取得し、これを任意に処分する権限を得た。

5.(一)昭和五三年八月三〇日、被告は訴外三和産業に対し、本件不動産を抵当権等の担保権の負担の付いた状態で金一五〇〇万円で売渡した。

(二)被告が右売得金から弁済を受けるべき元本、費用は左記のとおりである。

(1)貸付元本 金一〇七五万〇六〇〇円前記1(一)、(二)及び3(一)ないし(三)の合計である。

(2)固定資産税 金七〇万二一五〇円

(3)不動産取得税 金一一〇万円

(4)仲介手数料 金八〇万円仲介人井上一夫に支払った。

(5)相生産商こと山崎義弘に対する代位弁済金 金一三〇万円

(6)電話金融業者に対する代位弁済金 金二五万円

(7)谷元実家保証分の代位弁済金 金一〇〇万円

(8)ビル電気工事代 金二〇万円

(9)ビル階段工事代 金四万円

(10)電気料金代位弁済 金四〇万円

(三)被告が弁済を受けるべき元本、費用の額は右のとおり合計金一六五四万二七五〇円であって、売得金を上回るので、原告に返還すべき金員はない。

第三、証拠<省略>

理由

一、本件不動産がもと原告の所有であった事実、原告が本件不動産につき被告のために譲渡担保権を設定し、被告が昭和五二年七月二八日本件不動産につき譲渡担保を原因として所有権移転登記を経由した事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、

1.被告は高川総合事務所の商号で不動産業、金融業を営むものであるが、昭和五二年六月頃、訴外株式会社三幸の紹介により原告の代表者である谷元剛を知るに至り、右谷元の依頼により、同年七月上旬頃、原告に対し、訴外成安物産からの借入金の弁済資金として金二六五万円、手形決済資金として金一二六万円をそれぞれ貸付けた。

2.昭和五二年七月中旬頃、被告は、谷元から、同年八月末に中小企業信用保証協会から融資を受けられることになっているのでそれまでのつなぎとして原告に融資をするよう依頼され、右依頼に応じて既に貸付けた前記金三九一万円を含め金一二〇〇万円を限度として原告に融資することを承諾し、右貸付金を担保するため本件不動産に譲渡担保を設定するよう谷元に要求し、その結果、原被告間に左記約定の下に譲渡担保設定契約が締結され、右契約に基づいて、被告は本件不動産につき譲渡担保を原因とする所有権移転登記を経由した。

(一)被担保債権 昭和五二年八月までに金一二〇〇万円を限度として被告が原告に対して貸付ける金員(既貸付分を含む)

(二)利息 月三分

(三)弁済期 昭和五二年九月二八日

(四)処分清算 原告が右元利金の弁済を怠ったときは、被告において本件不動産を遅滞なく任意に処分し、その売得金を被担保債権の弁済及び諸費用に充当し、残余は原告に返還する。

3.被告は、右合意に基づき、原告に対して、昭和五二年七月二八日金一八四万〇六〇〇円、同月末日頃金一五〇万円、同年八月一八日頃金三五〇万円をそれぞれ貸付けた。

4.原告は、昭和五二年九月二七日までに右貸付金合計金一〇七五万〇六〇〇円の支払をしなかった。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

そして、右各事実によれば、貸付金債務の弁済期の経過により、被告は前記処分清算合意に基づいて本件不動産を遅滞なく処分し、売得金から被担保債権、費用の弁済を受けて、残余があるときはこれを原告に返還すべきいわゆる清算義務を負うに至ったものと認められる。

二、被告が昭和五三年八月三〇日訴外三和産業に本件不動産を譲渡し、昭和五四年二月五日所有権移転登記を了した事実は当事者間に争いがなく、右事実に<証拠>によれば、被告は、昭和五三年八月三〇日、本件不動産を訴外中小企業金融公庫、同兵庫県信用保証協会、同株式会社池田銀行の担保権の負担つきの状態で、代金一五〇〇万円で訴外三和産業に売却し、昭和五四年二月五日に所有権移転登記を了したものであることが認められる。

ところで、担保権の実行には、債権者が目的物を第三者に処分しその売得金をもって債務の弁済に充当し、残額を債務者に清算金として交付する処分清算方式と、債権者が目的物を適正な評価額で確定的に自己の所有に帰せしめ、右評価額と債務との差額を債務者に清算交付する帰属清算方式とがあるが、譲渡担保が目的物の金銭的価値に着目し右価値の実現によって被担保債権の満足を得るために所有権移転の構成をとるものである点に鑑みると、担保権実行の方式としては前記二者のうち帰属清算方式をもって原則的形態と解すべきであり、本件のように合意により処分清算の方式をとる場合でも、債権者は目的物を相当価額で処分すべき義務を負い、処分価額が目的物の適正評価額その他諸般の事情に照らして不相当であるときは、右処分は担保権の実行ということはできず、債権者は帰属清算の原則に立戻って目的物の適正評価額を基礎として清算をなすべき義務があると解するのが相当である。

三、そこで、以下、本件処分行為の相当性について判断するに、

1.<証拠>によれば、本件不動産の売却に際し、訴外三和産業と被告は、本件不動産を約六、〇〇〇万円ないし六、五〇〇万円と見積り、同不動産に対する訴外中小企業金融公庫、兵庫県信用保証協会、池田銀行の総債権額を四、五〇〇万円とみてこれの支払を訴外三和産業において引受け支払う約定のもとに、前記売買代金額金一、五〇〇万円を決定したことが認められる。しかしながら、他方、<証拠>によれば、不動産鑑定士高橋晃嘉は原告訴訟代理人の依頼により自用の土地建物としての本件不動産の正常価格の鑑定評価を行ない、本件不動産の価格を、昭和五二年七月三一日時点で金八七五三万円、昭和五三年七月三一日時点で金九二〇〇万円、昭和五四年五月一日時点で金九六七七万円と評価した事実が認められ、また、<証拠>によれば、昭和五四年二月五日当時、本件不動産については、訴外中小企業金融公庫が抵当権(債権額金三八〇〇万円)を、訴外兵庫県信用保証協会が根抵当権(極度額金一二〇〇万円)を、訴外株式会社池田銀行が根抵当権(極度額金一五〇〇万円)をそれぞれ有しており、右三者の被担保債権の合計は金五一五一万五五六八円であった事実が認められる。

以上の事実によれば、被告の本件不動産の処分価額は時価の約七割相当にすぎないのであるから、不当に低額であると認めざるを得ない。

2.さらに、<証拠>によると、前判示のとおり被告が昭和五二年八月一八日頃原告に三五〇万円を貸し付けた二、三日後、被告は、原告より負債整理について受任していた本件訴訟代理人弁護士宇津呂雄章から原告の負債整理についての協力方を頼まれたが、宇津呂弁護士と被告との間の原告の債務整理についての話合いは進展せず、原告は昭和五三年一一月二二日、被告に対して、原告の被告に対する債務等清算金支払と引換えに本件不動産について被告に対する所有権移転登記の抹消登記手続を本訴において請求したこと、ところが、宇津呂弁護士と被告との間での交渉が途絶えてしまっていた昭和五三年八月三〇日に前判示のとおり被告は本件不動産を訴外三和産業に売り渡してしまい、これは、原告側に売却代金を通知することなくなされたこと、そして、本訴が提起された後の昭和五四年二月五日前判示のとおりこの旨の所有権移転登記が経由されたこと、そこで、原告はやむなく、所有権移転登記抹消請求を清算金請求に訴え変更せざるを得なくなったこと、以上の事実が認められる。

3.右認定の各事実を総合すれば、被告のなした本件不動産の処分行為はその対価、方法において到底適正なものと認めることはできないから、これをもって担保権の実行と認めることはできない。よって、被告は本件不動産の適正な評価額によってその清算をなす義務がある。そこで、次に右評価の時点について検討するに、帰属清算の場合の換価処分時、すなわち、債務者が不動産の所有権を回復できる最終時期又は清算金の確定の基準時は不動産の価額を適正に評価し、更にその価額から自己の債権額等を控除して清算金額を確定し、かつ清算金を債務者に提供したときを指すと解するのが相当である。債務者が特に争わない場合は別として、債権者が帰属清算なのにかかわらず第三者に売却したときをもって清算金確定の基準時とすることはできない。しかして、原告は本件不動産が三和産業に所有権移転登記された昭和五四年二月五日をもって譲渡担保権実行時ととらえこれをもって清算金確定の基準時と主張しているところ、この日より前に被告が清算金額を確定しこれを原告に提供したことを認めるべき証拠はないので、本件においては、原告が、清算金提供の利益を放棄したと解し、右第三者への登記の日をもって基準日と解するのが相当である。

四、そこで、昭和五四年二月五日を基準日として本件不動産の適正価格とこれから控除すべき被告の債権額等について判断する。

1.前記三1の認定事実によれば、昭和五四年二月五日を基準日とする本件不動産の適正価格は、この日に最も近い昭和五三年七月二一日の評価額九二〇〇万円からその負担にかかる債務合計額五一五一万五五六八円を控除した四〇四八万四四三二円と認めるべきである。

2.次に控除すべき被告の債権額等について判断する。

(一)<証拠>によれば、被告が、昭和五四年二月五日の基準日までに、本件不動産について、固定資産税金七〇万二一五〇円、電気工事代金二〇万円、階段工事代金四万円、電気料金四〇万円、以上合計金一三四万二一五〇円を原告のために立て替えて支払ったことが認められる。

(二)さらに、被告は、本件不動産の売得金から弁済を受けるべきものとして、被告の主張5(二)(3)ないし(7)のとおり主張する。しかしながら、

(1)<証拠>によれば、前記(二)(3)の不動産取得税一一〇万円は、本件不動産を原告から取得した被告に対して課せられたものであることが認められ、したがって、本件譲渡担保の清算につき、売得金から弁済を受けるべきものではないというべきである。

(2)同(二)の仲介手数料八〇万円について、被告は、本件不動産を三和産業に売却する際仲介をした訴外井上一夫に支払ったものであるから、譲渡担保権実行の費用として売得金から弁済を受けるべきである旨主張し、被告本人尋問の結果中には右主張に沿う供述部分が存する。しかし、被告本人尋問の結果によれば、被告自身不動産業を営んでおり、井上一夫は被告の従業員で本件不動産の管理に従事したこともある事実が認められ、右事実に照らすと、右井上が真に独立の仲介者として本件不動産の仲介に当たり、その報酬として被告が井上に金八〇万円を支払ったものとは認め難く、前記供述部分は措信できず、他に被告の右主張を認め得る的確な証拠はない。

(3)<証拠>によれば、被告が本件不動産につき所有権移転登記を経由した後、訴外山崎義弘の申請により被告に対し本件不動産の処分禁止の仮処分がなされたため、被告は右仮処分の解決のため、山崎に対し昭和五四年一月二六日和解金として前記(二)(5)記載の金一三〇万円を支払った事実が認められるが、右金員が本件譲渡担保の被担保債権ないし費用である事実を認め得る証拠は存しないから、右金員を売得金から控除すべきであるとの被告の主張は失当である。

(4)同(二)(6)、(7)の各弁済金については、被告本人尋問の結果により、昭和五三年九月に被告が右各金員を支払った事実を一応認め得るものの、右金員が本件譲渡担保の被担保債権ないし費用である事実を認め得る証拠は存しないから、右各金員に関する被告の主張も失当である。

(三)したがって、被告は、本件不動産の適正評価額四〇四八万四四三二円から前記認定の被担保債権合計一〇七五万〇六〇〇円と必要経費金一三四万二一五〇円を控除した残額である金二八三九万一六八二円を清算金として原告に支払うべき義務があるというべきである。

五、以上によれば、原告の本訴請求は、本件譲渡担保清算金二八三九万一六八二円及びこれに対する清算金算出の基準日の翌日である昭和五四年二月六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 久末洋三 裁判官 塩月秀平 裁判官山下郁夫は出張中につき署名押印できない。裁判長裁判官 久末洋三)

<以下省略>

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